(研究生活で) うつにならないで

こんにちは。 山師です。

今回は研究生活におけるメンタルヘルスの話を書こうと思います。 ただし、私は精神保健医療その他の専門領域には全く詳しくありません。 ですので、私の個人的な体験談を柱にして書いてみたいと思います。 必ずしも万人に当てはまるとは思いませんが、参考になれば幸いです。

精神衛生って何だ?

大学や研究所で研究活動をするにあたり、精神衛生は極めて重要だと言われています。 確かに、そもそも研究の成果とは人間の精神が作り上げたものです。 なので、もし精神の正常な働きが損なわれたり、なくなってしまったりした場合は、研究成果が生まれにくくなるか、しいては生まれなくなってしまうでしょう。 実際、研究活動で必要な行動は、実験やデータ解析、理論計算、論文執筆、さらには他の研究者との調整など多岐にわたるために、精神の悪化も多岐に影響を及ぼします。

そもそも精神衛生とか、精神が正常であることの定義は何でしょう? これはおそらく目的に依存します。 例えば重大事件の被疑者に対して精神鑑定を行うことがあるのは、責任能力という精神の一部分のはたらきが正常であることを識別するためでしょう。 精神のはたらきは幅広く相互に関係するので、精神衛生とは一律にこれだ!という定義は困難だと思われます。

精神衛生が悪化するということは、精神衛生の状態が崩れることを意味します (それはそうだ) 。 目的がないまま精神衛生を定義することが困難である以上、精神衛生が悪化することを定義するのも困難です。 最近では脳科学が進歩してきて、精神衛生と脳内物質のバランスとは等価であると考える人もいるようです。 唯物論が好きな人なら大喜びですが、しかし脳科学もまだよくわかっておらず、「精神とは脳内物質だ!」と言い切るのは行き過ぎな気がします。

そういうわけで、今のところ可能性があるのは、精神衛生を現象論的に定義することです。 つまり、研究の進捗が生まれないが原因となる肉体的な性質がない、したがってそれは精神に帰せられる、みたいな。 もっとも、ほとんどは気力が湧かないとか、そういうパッと見ではわからないような症状だと思います。 現象というのは漠然とした言葉ですが、大きく分けて行動の変化と気持ちの変化があると思います。

山師、うつになる

私は修士1年の夏ごろに精神科を訪れ、抑うつと診断されました。 当時の私の状態はだいたい次のとおりだったと思います。

  1. 研究の進捗がない (行動)
  2. 研究をやる気が起きない (気持ち)
  3. ゲームが楽しくない (気持ち)
  4. 毎日酒を飲み、抑えることができない (行動)
  5. 泣きたい、死にたい気持ちになる (気持ち)
  6. 研究室に行けなくなった (行動)
  7. 朝起きられなくなった (行動)

おおむね1から7の順に進行していったと思います。 カッコ内は行動と気持ちの大まかな分類です。 これらの症状によって私の生活はほとんど破綻していました。 仕事は進まず、自宅は散らかり、人付き合いも疎になっていました。

唯物論的治療

精神科ではまず薬物療法を受けることになりました。 これはつまるところ「精神とは脳内物質だ!」式の解決法です。 確かにこれはある程度効果があり、3ヶ月もすれば研究室に週1くらいで行けるようになりました。 しかし、研究のやる気はなかなか出ませんでした。

精神衛生をさらに取り戻すために始めたのが筋トレでした。 はじめは、例えばベンチプレスで大した重量を上げることができなかったところ、何回か通っているうちにどんどん重量が増えていきました。 体には筋肉がつき、また良い感じの脳内物質が出てくることもあり、精神状態の安定を実感できるようになりました。 これも唯物論的解決法ですね。 ただし、筋トレで疲れて却って研究に手がつかないこともままありました。

食事にも気を付けるようになりました。 自炊中心の食生活とし、筋トレのためもあってタンパク質を多く含む食品を食べるよう心がけました。 特に納豆や赤身肉、青魚などの成分が精神に良いと風の噂に聞いたので、よく食べていました。 食事の喜びもさることながら、料理することで自分が世界に対して何らかの効果を与えることができるということが嬉しく、精神に良い影響を与えたと思っています。

観念論的治療

精神衛生を回復するにあたって、再び精神衛生が悪化しないようにすることは重要です。 うつになることの損失は大きく、仕事から日常生活まで多くの場面に影響します。 このような大損失イベントが人生の中で何回もあるとなっては、これから先生きていくのが大変です。 したがって、うつを回復するだけでなく、予防することが重要になってきます。

そのために必要なのは、外部から取り入れた情報の解釈の仕方を変えることだと考えました。 具体例としては、えらい先生が「山師くんの論文の〇〇を修正してね」と言ったとしましょう。 このとき、以前の私ならば「私の論文執筆能力が非難されている」と解釈し落ち込んでいました。 現在なら、そうは思わず「ただ修正すればよいのだな」と思うでしょう。 このように、一言でいえば図々しく考えるようになりました。

また、行動原理に関しても見直しました。 以前は他人から与えられた仕事をこなすことが第一で、自分がやりたい仕事は後回しにしていました。 結果として、他人の評価を気にすることが癖になっており、他人の目に怯えながらの毎日を送っていました。 現在は、周りの皆様には申し訳ないですが、自分の仕事を優先するようにしています。 このほうが、たとえ失敗しても怒られることがなく、しかも自分の責任に対して納得できます。

これらの気持ちや行動の見直しは物質に即したものではなく、考えによるものです。 唯物論的治療と比べるとその効果に即効性はないでしょう。 しかし、薬物療法を卒業した後に再びうつになることを防ぐためには有効だと思っています。

どうか、うつにならないで

さまざまな治療のおかげで、私は精神衛生を回復し、現在では博士論文を執筆できるまでになりました。 上にあげた以外にも、研究での嬉しいことがあったり、学振が取れたりしたときには精神状態が改善しました。 研究室を含む周りの人々の理解があったことも重要です。

しかし、うつになることは精神衛生を悪化させ、大学院生の研究や生活に悪影響を及ぼします。 大学院生はストレスが多く大変ですが、どうかうつを予防して、充実した研究生活を送ってほしいです。

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